セルフビルド体験記
第2話
基礎工事
バックホーの運転資格取得
役所からのお墨付き(建築確認)ももらったし、さあ造るぞー!
最初は基礎工事である。
ところが、この基礎工事というやつが、素人には実に手を出しにくい。
地面に大きく穴を掘るのにバックホー(=油圧ショベル、ユンボともいう。)のような大きな機械がないと、とてもじゃないが手でスコップで掘っていたんじゃ大変だ。
コンクリートの型枠をつくるといったって、ほとんどの業者が使っているメタル製の型枠材なんかもちろん持っていないし、
コンクリートを買ったこともない。(当然だ!)
ひとりでやるなんて、とても大変そうだ。
基礎だけは業者に頼もうかな・・・という手もある。
でも私は考えた。
基礎は家づくりの最初の仕事だ。
次には構造材への墨付け・刻みという、もっと難しそうな作業が待っている。
どうせすべてが初めてのことで素人にとって難しそうな作業なんだから、最初から外注するより、自分でやってしまった方が経験になるし、自信もつくんではないか?
じゃあ、やっちまおう。
では問題をひとつひとつ踏み潰していこう。
まず、大型掘削機械(バックホウ)のことだが、電話帳(タウンページ)の建設機械リースの項目を見たら、いくつかリース会社があったので電話してみた。
ミニバックホウのレンタル料は一日あたり8000円だそうだ。
相手が個人だろうが関係ない。金され払えば貸してくれる。
ただし、借りる人は普通は業者なので、自分のとこでトラックを持ってきてバックホウを積んでいくのだが、こっちには当然トラックなんかない。
その場合は現場まで運んでくれるそうだ。
運搬費は片道1万円、往復だと2万円にもなる。
ということは、1回借りて1日使うと、2万8千円かかるということか。
レンタル料より運搬費の方がずっとかかるじゃないか。
でもしかたない。 2万8千円で穴掘りが終わるなら安いもんだ。
次に型枠の件
型枠は、別に鋼製のものでなくてもコンパネでも十分だ。現にコンパネで型枠をつくっている現場もある。
(※ コンパネ ⇒ コンクリートパネルの略。厚さ12ミリの合板、普通は90センチ×180センチ)
コンパネはホームセンターでも一枚千円くらいで売っていたし、当然材木屋から買える。
でも、一回使えば終わりというのではもったいない。
この先、仮設物を何かしら造る事もあるだろうからその時に使いまわしすればいいや。
気楽に使える材料というのもあったほうがいいかも。
コンクリートは、自分で砂利やセメントを錬るのは大変だから生コン屋から買おう。
生コンを型枠に入れたら、すぐに突き固めたり表面をならしたりしなければならないから、人手が必要だ。
たいして技術はいらないが、とにかく短時間でやらなければならないから最低5、6人は欲しい。
では、職場の人間に「めったに出来ない経験が出来る。」とか何とか声をかけて、うまいこと集めればいいさ。
フッフッフ・・
鉄筋の加工なんてやったことない。
どこかの工事現場でも見学して、職人がどうやって加工しているのか盗み見ておこう・・・
こういう感じで、基礎を手作りする見通しはたてた。
私は学生時代に土木工事のアルバイトをたくさんした経験があったので、基礎を自分で造ることに関して抵抗感はなかった。
アルバイトをしていたある時、親方から「小型バックホウを運転しろ」といわれたことがあった。
もちろん資格もないし、やったこともないのに・・・である。
忙しいとそんなことは考えていられなくなるらしい。
親方がいうには、「こんなもの簡単だからやってみろ。俺が教えてやるから。」
2、3回手本を見せられた後、自分が運転して穴掘りをしたところ、はじめのうちは、変にレバーを引いてしまって機械本体が突然回転したりして怖い目にあったが、30分もやっているとすぐに慣れて、穴が掘れるようになっていた。
今ではどうやって運転するのかすっかり忘れてしまったが、「穴掘りくらいは簡単にできるようになる。」ということだけは体感として知っていたのだ。
ここでもまた法律の壁がある。
バックホウのような機械は「車両系建設機械運転技能講習終了証」という資格を持っていないと運転してはいけないことになっている。
さて、この問題をどうクリアしたか?
私には幸い、建設会社に勤めている友人が一人いた。
彼に相談したところ、資格をとるための講習というのがあちこちで何回も行われているらしく、考えた末、その講習を受け、正面切って資格をとることにした。
実際には無資格で大きな機械を運転していることはザラにあるらしい。
自宅をつくるために2、3日ミニバックホウを、周囲に誰もいない場所で無資格で運転しようが、現実にはたいして問題なさそうだったが、一応、きっちり規則を守ってやることにしよう。
手の空いたときに3日間の有給休暇を取り、講習を受けに行った。
講習料は3万円ほど。
もったいない出費だが、道具や資格なんてものは後々まで使えるから、こういうことにはケチらない方がいいかな・・と思っていた。
講習会場に行ってみると、若いのからかなり年配の人まで、様々な人たちが受けにきている。
2日間学科の講習があって、3日目に学科試験と実技試験があるそうだ。
主催者側の最初の挨拶で、
「この講習の先生は、試験に出る内容のところにくると皆さんにアンダーラインを引くように言うようですから、気をつけて聞いていてください。」との話をする。
果たして講習がはじまると、講師は確かに時々アンダーラインを引くようにと促す。
試験を受けてみたら、見事にその箇所が出題されているではないか!
これじゃあ、誰でも合格できるわい・・・
さて、実技の方はというと、最終日の試験の前に、ほんの少し説明と練習があるだけで、ほとんど時間不足。
ところが、実技試験がはじまって納得した。
実技試験のポイントは、いかにうまく、流れるような動作で穴を掘るか・・・ではなくて、安全確認をちゃんとやっているかというただ一点だけだった。
クルマの免許でいえば、曲がり角に来たときに安全確認のために試験官の前でおおげさに首を回したりするではないですか。 あんな感じ。
どんなに時間がかかって下手くそだろうが関係なし。
しかも、減点が多いと試験をやり直させられる。
つまり、実技に関しては合格するまで何度でも試験を繰り返し行うのだ。
これじゃあ、全員合格だ!
むしろ、動作の遅い、下手な人が一度で合格し、見るからに現場で無資格でやっていたと思われる人は、流れるような動作で上手に土を堀るけれど、たいていやり直しをさせられる。
安全確認をしない癖がついてしまっているからだ。
というわけで、めでたく資格取得に成功。
授業中寝ていなければ誰でも合格できるものらしい。
土工事
秋も深まる頃、工事が始まった。
「始まった」というより「始めた」という方が正確かな?
時々、建設会社に勤めている友人が、面白がって手伝いに来てくれた。
こういう友人がいると非常に心強い。何でも知っている。
家の周囲に杭を打った後、水平を見る「レベル」という器械などを使い、「遣り方」と呼ばれる板を水平に杭に打ちつけた。
その板の上に、基礎の中心線を示す釘を打って、遣り方を終了。
次はいよいよ、穴掘りだ。
建築現場は、当時私たちが住んでいた町からクルマで2時間以上かかる場所だったので、土曜日と日曜日にそれぞれ往復していたのでは大変だし効率が悪い。
そこで、現場にテントを張って泊まることにした。
現場は何もないところだ。
トイレの大をするときは、普通はどこかに穴でも掘ってすませればいいのだけれど、自分の敷地、しかもこれから穴掘りしようとするところにするのも嫌だなあ。(^_^;
かといって、他人の敷地にするのも良心がとがめるので、「大」は夕方、作業が終わってビールを飲んでしまう前に麓のコンビニですませてきた。
当時、周囲に人家はなく林でさえぎられていたため、夜泊まると街の明かりは全く見えなかった。静かなもんだ。
夜はコオロギの鳴き声と、かすかに風にそよぐ草の音だけ。
あとは満天の星空が見えるのみ・・・
クマが出なければいいなあ・・・などと考えながらいつしか眠っていた。
リース会社の人が、トラックにミニバックホウを載せてやってきた。
バックホウの操作レバーは左右2本あるが、製造会社によって若干操作方法に違いがあるので、リース会社の人にひととおり聞いてから作業開始。
ほどなく、助っ人(野次馬?)がやってきた。
職場の、私の係の若いもん。「梅ちゃん」だ。
高校を卒業して就職間もない梅ちゃんは、とても素直で素朴で実直で、高校時代は山奥の実家から学校まで片道40kmを毎日自転車で通っていたうえに、ウィンタースポーツで国体に出たほどのスポーツマンだ。
この頼もしい「若いもん」は、私の家づくりに大変興味をもって、よく手伝いに来てくれた。
だが期待の梅ちゃんも、初日は面白がってミニバックホウをいじくっていたと思ったら、いつの間にかいなくなっている・・?
テントの中でグースカ寝ているではないか。(-_-)。o O
ゆうべ親父と遅くまで飲んでいたというからな。しかたないか・・・
私一人で穴掘り(専門用語で「根切り」という。)をした。
さわやかな秋空の下、自分の家となる場所に、覚えたての機械を操作して穴を掘るのはなんともいえない楽しさだ。
機械なので能率は抜群! 一日で荒堀りの大半が終わってしまった。
一日の作業が終わり陽が沈むころ、テントの中から梅ちゃんが起き出てきた(^_^;
この作業で私が予想しなかった困難は「残土」の置き場がないことだった。
掘ることしか頭になかったが、60cmもの深さで家一軒分ぐるりと一周掘ると、掘り出された土は相当な量にのぼる。
しかも、掘り出されるとほぐれるので容積が膨らむのである。
自分の敷地内だけでこの「残土」を置こうとすると、掘ったラインの内側に残土がうず高く盛られることになり、ちょっとした小山のようになってしまう。
そこに自分が乗っているミニバックホウがいるのだ。 足元が不安定このうえない。
もっと土地が広ければ、余裕を持って残土処理できるから楽なんだけど・・
ブレード(排土板)を降ろして安定させてから作業するものの、なんとなく怖い。
もし機械ごと転倒したら助けを呼ぶしかないかも・・・
あたりには誰もいない。・・いや、梅ちゃんがいた。でもテントで寝ているからいないのと同じだ。
慎重に、慎重に・・・
ミニバックホウを借りている間、布基礎本体部分のほかに、便槽を埋め込む大穴や、排水処理のための浸透枡を埋め込む大穴などを次々に掘っていった。
秋の3連休を利用したため、リース会社には「土曜日だけ使います。」と言って一日分のレンタル料8千円を払ったが、機械を回収に来るのは連休明けの火曜日だからそれまで3日間使い放題使っちまえ!
梅ちゃんは、初日の反省をバネに、次回からは猛然と働き出した。
地業工事といって、基礎の底部分に割りグリ石や砕石を入れて突き固める作業をしたときは、雨降りだった。
「梅ちゃん。今日は雨が強くなってきたからもうやめよう。」
「いや、やってしまいましょう!」
こう力強く言われるとやるしかない。
二人でカッパを着て、泥まみれになって作業した。
「梅ちゃん。昼飯を買ってきてくれ。なに弁当でもいい。任せるから。」
梅ちゃんが買ってきたのは、「焼肉大盛り弁当デラックス」だった。
滅茶苦茶うまかった! 私はこのときほどメシがうまいと感じたことはなかった。
生コンの想い出
12月に入って雪も散らつくようになった頃、基礎のフーチン(ベース部分)の型枠、鉄筋組み立てが終わり、生コンクリートを流し込む段階となった。
生コンというやつは、工場を出てから現場に運ばれる途中で、砕石と砂とセメントと水がミキサー車の中でゆっくりと攪拌されて到着するが、徐々に固まってくるので、工場を出てから1時間半以内に流し込み終わらなければならない。
現場で生コンを手早く流し込むためには人手が必要だ。
この点、私は恵まれていた。
職場の係長(ゴルゴ13みたいな人だった)の号令ひとつで、係の若いもん全員が手伝いに来ることになった。
主任(当時私は主任だった。)の家を皆でつくりに行こう! という気合と興味が係全員にあふれていた。仮に興味がなくても、ゴルゴ13には逆らえる雰囲気ではなかった。
生コンは、電話帳で調べた生コン会社のうち、現場から近そうなところに電話をかけて注文した。
「あのー、個人なんですが。生コン3.5りゅうべ程欲しいんですが・・」
生コン会社に電話するのはほとんど業者だろうから、最初にいちいち「個人なんですが・・」と断らないと話がスムーズにいかない。
さらに、届けてもらう場所の説明が面倒だ。
住宅地図に載っていれば住所を伝えるだけで済むが、山の中では言葉で説明しきれない。
「後で地図をFAXします。」と言えば向こうは安心するようだった。
届けてもらうのは、我々が休みの日で、生コン会社が営業している日でなければならない。
必然的に土曜日しかできないことになる。
ところが金曜の夜から雪が降り続き、当日の朝早く現場に行って見たら、一面の銀世界になっていた。
まずい!
雪の上に直接生コンを流すわけにはいかない。
地業との間に隙間ができたら大変だ。
生コン車は10時に来る予定になっていたから、大急ぎで雪かきだ。
雪かきといっても、配置している鉄筋が邪魔で、通常の雪かきのようにスコップなどは使えない。
仕方なく素手でやった。 当然はかどらない。焦る!
建設会社に勤めている友人も、前夜からの雪を見て心配になって朝早くやってきた。
さすがに彼は、現場がどういう状況になっているか理解していて、ポンプ持参でやってきた。 裏の沢から水を引いて、水を撒いて雪を溶かそうというのだ。
これはうまくいった。生コン車が来る前になんとか雪を溶かし終えた。
職場の助っ人たちも、雪道をふらふらしながら次々やってきた。
さあ、生コン車が到着だ・・・と思った瞬間、トラブル発生!
現場に来る道の最後の急坂・急カーブのところで、生コン車がスリップして上ってこられない。
スリップしているうちに車体の向きも動いてしまい、もはや上ることもできず、引き返すこともできない。
やばい!
普通のより小型サイズの4トン車とはいえ、生コン車だぞ、生コン車!
いくら人手が多いといったって、こんな重い車体を押したってどうにもなるもんではない。
普通の工事現場と違い、ワイヤーをかけて引っ張り上げることができるバックホウのような機械もない。
時間は刻一刻と過ぎてゆく。
このままではミキサーの中でコンクリートが固まってしまう。
そうなったらどうなるんだろう・・・・想像もしたくない。
ええい、やるしかない! ということで、皆でタイヤの周りの雪を払い、氷をスコップで削り取り、ゴルゴ13係長の指揮のもと悪戦苦闘の末、ついに生コン車はそこから脱出!
すぐさま作業にかかる。もう時間が大分たっているから急がないと本当に固まってしまう。
大きな工事現場のようにポンプ圧送車などはないから、原始的に一輪車で生コンを運ぶのだ。
生コンを運ぶ人、棒で突き固める人、コテで天端ならしをする人・・・冬なのに皆汗だくで、両手が塞がっているから汗をぬぐうのも大変だ。
妻がタオルを持って、各人の汗をふき取って歩く。
2台目の生コンを流し終えて、ほっとしたのも束も間、コンクリートの養生のため大急ぎで現場全体にシートをかぶせる。
そして、その中に缶にいれた練炭を適当な間隔を置いて入れてゆく。
練炭で保温しておかなければ生コンクリートが凍ってしまうのだ。
大忙しの一日だった。
でも皆のおかげてやり終えた。
あとは現場は雪に覆われ、クルマで近づくことができない。
今年の作業はこれで終わり。
春までお休みだ。冬の間の休日は、スキーでもして遊んでおこう。
鉄筋加工組立など
私は、この日本ではまだあまり一般的ではない「手作り」という方法で家を建てました。
素人であるため、すべてが初めてのことで、そのため随分と無駄なこと、遠回りなこともしてしまいました。
もし、もう一度建てることがあるなら前回よりずっと効率よく出来る自信はあるのですが、初めての事であれば、ましてあまり情報もない中で行えば、多少の失敗はつきものでしょう。
基礎工事では、その「随分と遠回りなこと」をやってしまいました。
工事をはじめたのが10月中旬。
土日だけの作業で、遣り方、根切り(穴掘り)、地際工事(砕石など)、フーチン(ベース)型枠、フーチンの鉄筋、フーチンの生コン打設・・・までやったところで、12月になり雪が積もりました。
前回は、ここまでのお話でした。
今回から、一冬越して翌年のお話です。
春4月、岩手県南部の海沿いの街に転勤になってしまった。
建築現場まで、以前はクルマで2時間15分くらいだったが、今度は2時間30分くらいだ。
盛岡に転勤して、30分以内でいけるようになることを期待していたら、かえって遠くなってしまった。
転勤後、いろいろ事情があって、工事を再開できたのは夏になってからだった。
さて、久しぶりに現場に行って見ると、フーチンのコンクリートから立ち上がっている鉄筋たちが真っ赤に錆びている! ( ̄□ ̄;)!!
がっかりするほど見事に錆びている!
家の中央部の鉄筋にはアシナガバチが巣をつくり、見張りのハチたちが、
「ここは俺たちの縄張りだ。近づく者は容赦なく刺すぞ!」という感じで周囲を伺っている。
周囲は草に覆われ、「かつてここに、誰かの住居があった・・・」という廃墟の雰囲気が漂っている。
「へー~~」・・・と力が抜けていった。
サビを全部落とさなければ次に進めない。
こういうのを、いわゆる「手戻り」という。工事の段取りが悪くて余計な作業が増えてしまった。
本来は、基礎工事の途中で鉄筋を露出させたまま一冬越すなんてことはあり得ない話だ。
工事をはじめるときに、どのくらいの期間がかかるかあらかじめ予測して、ヤバイ状態で冬越しなんてことのないようにするべきなのに、素人ではじめてのことだから具体的に工事期間を予測できない。
「雪が積もるまでに基礎を終わるだろう・・・」という、自分に都合の良い希望的観測で見通しを立てたら見事にはずれ、真っ赤な鉄筋たちが整然と並ぶ美しい姿を見る機会に恵まれた(^_^;
鉄筋コンクリートは、鉄筋とコンクリートが密着してはじめてその効果が発揮できる。
鉄筋にサビがついていれば、コンクリートとの間にサビ分が入り込んでうまく密着しないことは、誰でも想像がつく。
さーて、サビをどうやって落とそうか?
ワイヤブラシでゴシゴシ擦れば落とせそうだな・・・
当時私は、電動工具なるものを何も持っていなかった。
ホームセンターで、歯ブラシの親分みたいなワイヤブラシを買ってきて、手で擦った。
一日中擦りに擦った。ひたすら擦った。
夏の一日、貴重な一日を費やして手ブラシで擦った結果が、ほんの数メートル分、サビが落ちただけだった。
・・・・
自分でも滑稽になってきた。 いい年した男が、一日かかってこれだけか・・
「俺はいったい何をやっているんだ・・・」
こんなことをやっていたら、全部落とす頃には、先にやった部分が雨にあたってまた錆びてしまうだろう。気が遠くなる。
そういうわけで、私が最初の電動工具=電気ドリルを買ったのは、何かに穴をあけることが目的ではなく、鉄筋のサビを落とすためだった。
電気ドリルの先にワイヤブラシをセットして一気に落としてしまおう。
でも、現場には電気がないぞ・・・
私は、ここでもまた無駄なことをしてしまった。
電気屋さんを通じて電力会社に申請すれば、仮設電柱を立ててもらい受電することが出来るのに、当時そのことを知らないために、わざわざ6万円もだして発電機を購入してしまった。
発電機の場合は、電動工具を使うたびにいちいちスタータを引っ張ってスイッチを入れたり切ったりするのが面倒だ。
かといってエンジンをかけっぱなしではガソリンがもったいないし、うるさい。
後に、仮設電柱を立ててからは発電機を使わなくなったので、リサイクル店に持っていったが、微々たる金額でしか売れなかった。
発電機は、私の家づくりで最大の無駄な出費となってしまった。
しかし・・・電動工具の威力はさすが。
電気ドリルにつけたワイヤブラシで、見る見るサビを落としていった。
廃墟のような雰囲気だった現場も、気を取り直して草を刈り、少し整理したらまた建築現場っぽい感じになってきた。
ついでに、夜暗くなってからアシナガバチの巣を退治した。(^^)v
よーし!頑張るぞ。(^o^)┘
周りには山しかなく、誰もいなかった建築現場も、この頃からだんだん人の気配がするようになってきた。
50mほど離れた土地に畑をつくったおばさんがいて、毎日街から通ってくるようになったのだ。
「いいねえ、夢だねえ・・・・」
「体力なきゃ出来ないよね。うちのダンナなんかもう弱ってしまってダメよ。」
「楽しみだねえ・・・・」
そう言っておばさんは時々、私にトマトやキューリをくれた。
夏の作業で疲れた私は、その場でトマトをガツガツ食べながらおばさんの話を聞いていた。
裏山の持ち主らしきお爺さんが時々散歩にやってきて、私の土地の端に座り込み、作業風景をしばらく眺めていったりした。
地元の長老は新参者が来た際、いきなり「おまえは何者だ?」と聞いたりはしない。
散歩を装い、なにげなく世間話をしながら、新参者の素性を確かめるらしい。
しばらく世間話をしたあと、
「おめえさまは、でえくさんか?」(おまえさんは大工さんか?)
「いいや、ただのサラリーマンだ。」
「どっからきてだ?」(どこから来ている?)
「大船渡からだ。片道2時間半かかる。」
「ほー~~」
「・・・・」
「かまねでしごどしろ」(俺にかまわず仕事しろ)
そう言われても、お爺さんはずっと居座って私の作業を見ているので、やりにくい!
でもお爺さんは、2度ほどの偵察の後、ほとんど来なくなった。
さて、基礎の型枠づくりだ。
プロの業者は、メタル製の型枠材を鉄製の丸パイプで組んで型枠を造り上げるが、素人はそういう材料がないのでコンパネを使った。
コンパネはサブロク板(3尺×6尺)が一般的だが、私の家の基礎立ち上がりは高さ55cmなので、2尺×6尺のコンパネを買って型枠にした。
コンパネの長手方向の端部に3cm角の桟木を打ち付け、一端はベース部分にコンクリート釘で留め、上部にくるもう一端は水糸にあわせて立て並べ、斜めに打ち付けた杭に釘で固定した。
生コンを流し込んだときに重さで型枠が壊れてしまったら笑い話なので、型枠の幅を保持するために「丸セパ」という金具を使ってしっかり固定する。
型枠が全部出来上がると、なかなか素晴らしい光景だった。
・・・と私には思えた。(^^ゞ
型枠そのものが、ひとつの構造物のように見えるのだ。
なにしろ自分でつくったものの中では、これまでで一番大きなものだ。
生コンを入れて固まった後に、取り外してしまうのが勿体ない!
・・で、またしても失敗してしまった。
普通のコンパネにそのままの状態で生コンを流し込むと、取り外すときに型枠がコンクリートに接着してしまって、うまくはずせなくなるのだそうだ。
あとで知った! (-_-;)
だから型枠剥離材という油を塗ってから型枠組みをする。
私はそれをしないで全部組んでしまった!
仕方ないので、幅の薄い刷毛を自作して、後から型枠内部に剥離材を塗りつけた。
後からやるほうが数段効率が悪い。
なにしろ鉄筋が邪魔で、思うように進まない。
鉄筋に剥離材を塗ってしまったら、これまた笑い話だ。
コンクリートと付着しなければならないはずの鉄筋が「剥離」してしまうのだ。
・・そんなこんなで、手戻りだらけの基礎づくりだった。
ソウイウコトモアルサ・・・・シッパイスルカラ、オボエテイクノサ・・・・
立ち上がり部分の生コン打設のときは、前回のベース部分のときと違って人手不足だったが、なんとかやり終えた。
生コンを型枠に流し込む際、型枠の中の隅々まで生コンが行き渡るように、プロはバイブレーターというものを使って生コンに振動を与える。
私らはそういうものがないので、原始的に生コンを棒で突いたり、型枠を木槌などでトントン叩き、振動を与えるという方法でやった。
要するに昔ながらのやり方だ。
生コン打設は、失敗すれば穴だらけのコンクリートが出来上がる。
通称「ジャンカ」と呼ばれ、強度がでないだけでなく、カッコワルイ姿を晒すことになる。
一週間後、ドキドキしながら型枠をはずしてみたら・・・
まっ、うまく出来てるじゃないか。(^^)v
その後、モルタルで基礎の天端(てんば)均しをして終了。
基礎工事は、無駄なこと遠回りなことが多かったが、無事に出来上がった。